一般社団法人 士別青年会議所 第67代理事長 太
田 壽 一
2023年度 スローガン
一 所 懸 命
〜はじめに〜
不安
常日頃より、私の脳裏に去来するものです。
経済に対する不安。つい数年前まで日本を牽引し、賞賛を浴びてきた大企業が、倒産・解体・吸収合併されることも珍しくない今、それよりも基盤が弱い中小企業が生き残るために、社員を路頭に迷わせないために、売上と利益をどう確保していくか。
子育てに対する不安。士別市は、市全体の出生数が2021年度には74人に留まり、市全体で2クラス分の人数にしかなりません。私が小学1年生の頃には17校あった小学校も、現在は6校にまで減少しており、少子化は加速度的に進行しています。
地域に対する不安。最盛期には45,705人を数えた士別市の人口も、今や合併した朝日町を含めても17,300人程度に減少しました。言うまでもなく、まちの活力は人口の多さと強い相関関係にあります。それを考えれば、このまちが年々活力を失っていることは隠しようのない現実です。
そして、青年会議所に対する不安…。このような不安は、数えればきりがありません。「より良くするためには、どうしたらいいのだろうか」、「このやり方で良いのだろうか、間違ってはいないか」…。常に自問自答を繰り返し、終わりのない問いにため息をつき、時には暗い気持ちになることもあります。しかし、憂鬱な気持ちで過ごしたところで、何の解決にもなりません。私たちは、目には見えないくらいほんの僅かでも、自分を、周囲を、地域をより良くしていくために行動し続けなければなりません。動いた先に希望があると信じ、止まることなく歩みを進めていかなければならないのです。
〜大きく変化した社会との向き合い方〜
新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの生活や様々な活動に大きな影響を与えました。士別市といえば、夏季には毎週のようにイベントやビールパーティーが行われておりましたが、その多くはコロナ禍のため中止となり、それによりまちの賑わいも失われているように感じます。しかしそのような状況でも、感染症の拡大防止を最大限に行った上で、以前のような形態ではありませんが、士別天塩川源流まつりなど実施されている催しもあります。当会でも、昨年度私が担当委員長として実施した異業種交流会や職業体験イベント、少年野球大会などにおいては、ウィズ・コロナに対応した、「新しい生活様式」を踏まえて実施し、無事1人の感染者を出すことなく終えることができました。またそれ以前においても、感染拡大のため延期や中止となった事業もありましたが、「どうすれば開催できるか?」と考え模索し続け、会として動きを止めることなく、可能な限り活動してまいりました。
最近になってようやく活動を再開し始めた団体もありますが、やはり2〜3年にもわたる空白期間の影響は大きく、「以前はどのように活動していたか、やり方がわからなくなってしまった」というお話も伺います。そのような中で、当会が果たすべき役割は大きいと感じます。まちにかつての賑わいを取り戻すべく、当会が先頭に立ち活動することで、他の団体に対し活気を伝播してまいります。
将来的には、以前のようにマスクもせず、他の人と近い距離で気兼ねなく会話やお酒を楽しめる日々が戻ってくるでしょう。しかしそのような日常が戻るには、まだまだ時間が必要なのは間違いありません。「コロナが発生する前は、気兼ねなくこんなことができたのに」と、過去に引きずられるのではなく、「今だからこそ、可能なことは何か」を考えて実施しなければなりません。孫子の『兵法』には、「夫れ兵の形は水に象る。水の形は高きを避けて低きに趨く。兵の形は実を避けて虚を撃つ。水は地によりて流を制し、兵は敵によりて勝を制す。故に兵に常勢なく、水に常形無し」という一節があります。青年会議所も同じです。水の如く時代と社会に合わせてそのかたちを変えながら物怖じせず果敢に運動を展開し、明るい豊かな社会の実現に向けて努力する所存です。
〜「外貨」を稼ぐ〜
2021年、12年ぶりに行われた士別市長選挙において、当会は候補者による公開討論会を実施させていただきました。コロナ禍という状況もあり、完全ウェブ化、動画サイトを用いたライブ配信というかたちではありましたが、多くの有権者の方々の耳目を集め、市政に対する興味や関心を引き出すことができたと考えます。その討論会において私が強く心惹かれたのが、現市長である渡辺英次氏が熱く語っていた、「外貨を稼ぎ経済を循環させる」というものです。私も一人の商売人として、この地域が良くなるにはどうすればいいか。具体的には、「多くの青年世代がまちに定住し、活気溢れる地域を実現するためには何が必要か」ということをよく考えます。その時真っ先に頭に浮かぶのが、「地元から商品を他の地域に送り出すことで稼ぐ」、「多くの人にとって働き口となる、稼げる産業をつくる」ということです。
その一つの例として、猿払村のホタテがあります。北海道、いえ日本を代表するホタテの産地である猿払村では従来の、「単純に獲る漁業」から、「育てて獲り、付加価値を付ける漁業」へシフトチェンジを行った結果、2016年度には年間の販売額が108億3,000万円、漁協組合員一人あたりで換算すると、約4,500万円にも上ります。そして市町村別の一人あたりの所得額は、約693万円で全国4位と、世田谷区などの東京都特別区4区や兵庫県芦屋市などを上回っており、まさに、「外貨を稼ぎ、まちの経済を循環させる」を実現させています。
私は、この猿払村こそ士別市が倣うべきモデルケースであると強く考えます。もちろん一朝一夕に外貨を稼げる産業ができるとは考えていません。ですが、「このまちには何もない」という諦念から、「このまちには何があるのだろうか。多くの人々を魅了し、購入していただけるものや観光資源、サービスは何だろうか」という希望へ。子どもたちが目を煌かせて地元で暮らしていくため、私たちは叡智を結集し、この課題に積極的に取り組んでまいります。
〜未来への投資〜
まちに多くの人が住み暮らしてもらうだけでなく、その数を減らさない努力をしていかなければなりません。そのために必要なことが、まちに住む子どもたちが成人したときに帰ってきてもらうことです。では、どうすれば帰ってきてもらえるのでしょうか。先程述べた「外貨を稼ぐ産業」に加えて、「愛郷心の醸成」も大事であると考えます。
では、どうすれば愛郷心を高めることができるのでしょうか。私は、「地域に対する肯定感の醸成」であると考えます。わかりやすく言うと、「自分のまちには、こんなにいいものがある」ということですが、そのために私たち大人がしてあげられることは何でしょうか。商店街をすごろくに例えた地域に対する理解の増進、職業体験を通じた地域の特色の学習、スポーツによる心技体の育成…。これらは全て当会が実施してきたことであり、私自身も体験してきたことであります。振り返ってみれば、雪まつりではかまくらの中で温かい飲み物を飲んで冬の醍醐味を味わい、天塩川まつりではジュニア神輿を担ぐことで夏の思い出をつくり、少年野球大会新人戦では土にまみれながら白球を追いかけ、スポーツマンシップを学びました。幼い私に、楽しい故郷の記憶と貴重な体験を与えてくれたのは士別青年会議所といっても過言ではありません。そして、そのような体験があったからこそ地元に対する肯定感=愛郷心が育まれ、今こうして地元で仕事に励み、家族と住み暮らし、そしてまちづくりに参画している自分がいます。2023年度も当会は、地域の大事な宝物である子どもたちに対して投資を惜しみません。成長の機会、そして愛郷心の醸成が叶う機会を提供し、健全なる育成を行うとともに明るい未来の礎を築いてまいります。
〜青年会議所の商品価値〜
多くの方々から、「士別青年会議所は人数が少ない中、少数精鋭で頑張っている」とお褒めの言葉をいただくことがあります。それはとてもありがたいのですが、実際は少数精鋭で活動したいのではなく、少数で活動しているだけなのです。本音を言えば、もっと多くの仲間とともに運動を展開したいと考えております。しかし残念ながら、私が入会した2015年度から正会員数が20名を超えることは一度もなく、徐々に減少の一途を辿り、昨年度はついに10名を切る事態となってしまいました。
会員数の減少に歯止めがきかない。何が原因なのでしょうか。もちろん答えは一つではありません。例えば、私が入会した頃は、「JC=飲み会ばかりしているスーツ集団」という声をよく聞きました。もちろんそれはごく一部分を切り取った誇張表現であり、今ではそのイメージを持たれている方は少ないと感じます。ですが現在、青年世代との会話から垣間見えるのは、「JC=家庭と仕事を放り出して、何かの活動している忙しい人たち」というものです。加えてある人からは、「JCをやっている家は、お父さんがいないから母子家庭だね!」と言われたこともあります。
このような状態では、どんなに、「一緒に地域を元気にしよう!」と声を掛けても、受け入れてもらうのは難しいと感じます。それこそ、どんなに良いサービスや商品でも、デメリットはあります。しかし、そのようなデメリットを補って余りあるメリットがあるからこそ、お客様に選んでいただけるのです。そのような観点から、私たちは会員発掘を進めるにあたり、「士別青年会議所」という商品について、その価値を見つめ直し、同年代の人たちに響くようなメリットを伝えていく必要があると考えます。
私自身仕事柄、多くの団体に所属しておりますが、ほとんどが、「会員間の交流」を目的としているものです。もちろんそこから得られる情報や結びつきは貴重な財産です。ですが、仕事の枠を超えて、心からつながり合える団体は青年会議所に勝るものはないと確信しています。同じ士別青年会議所に所属する異業種のメンバーからいただく刺激は常に良い影響を与えてくれますし、また旭川や名寄をはじめとした、道内の青年会議所に所属するメンバーとのつながりは何物にも代えられません。青年会議所ではお馴染みの、「若い我等」という歌に、「JCの仲間は 皆信じあう」という一節があります。例え活動する場所は違えども、全員が家庭や職場で責務を果たしながらも、限られた時間をやりくりしながら事業を構築し、地域のために頑張っています。そのような経験を共にしているからこそ、JAYCEEは場所を超えて通じ合えるのだと確信します。
また、今や一般常識となっているSDGsについても、日本中、そして士別に普及させていったのは青年会議所であると断言できます。2019年度に公益社団法人日本青年会議所より、「青年会議所は、日本で一番SDGsを推進する団体となる」と発せられた号令のもと、全国の各地会員会議所がSDGsを推進してまいりました。当会でも、市議会議員との意見交換・提言活動や青少年育成など、多くの事業でSDGsの普及に尽力してまいりました。先輩諸氏が展開してこられた、「北海道で2番目に創設された雪まつり」、「羊によるまちづくり運動」、「友好関係にある道外都市への子どもたちの派遣事業」など、地域を活性化させるために先陣を切って走ってきた例は枚挙に暇がありません。
このような青年会議所の魅力を自身の言葉で伝えることで、これからも当会が持続可能な組織となるよう、力を尽くしていきます。
〜結びに〜
かつて、「JCのバッヂを着けている人は『現代に生きる武士』なんだ!」と熱く語ってくれた先輩がいます。見渡す限りの原野を自らの手で開墾し、農産物が実る土地へ発展させるとともに、身の危険を脅かす外敵が襲ってきた際には命を懸けて地域を守る、そのような武士の精神を誰より引き継いでいるのがJAYCEEではないでしょうか。私たちはこれまで、地域に根差し、地域の可能性を広げ、煌く未来をつくるために活動してまいりました。そしてこれからも市民一人ひとりに活力が漲り、笑顔が溢れるまちとなるよう、力を惜しみません。
2023年度一般社団法人士別青年会議所は、「一所懸命」を旗印に、まちづくりとひとづくりに邁進してまいります。
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